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「過労死……かな」
アカネは、知ーらない、とそっけない。
霊同士であっても、互いの死に様など関心がないらしい。
強く握りしめていた左手を緩める。気づかないうちにスマホを壊してしまいそうだ。
「あんなの大したことないわよ、雑魚よ雑魚」
ちょっと撫でてやっただけだけど意外に効いたわね、と満足げにアカネが胸を張る。
緩く波を描く明るい色の髪が、彼女の肩の上でふわりと揺れる。重力が意味をもたない世界の住人らしく、アカネも宙にふわふわと漂っている。
「アカネさん、アレを上げたの?」
「んなわけないでしょ」
アカネが腕を組んで答える。なんであたしが、と言い、呼吸もしていないのに溜め息をついた。
「縁もゆかりもない土地縛りの雑魚を上げてやらなきゃなんないのよ」と顔をしかめる。
「徳を積めば、すぐに上がれるんじゃありませんでしたっけ」
全然違う、とアカネは不服を隠さずに言い放った。
「執着を解消すれば、って言ったのよ。いくらシュウが今の状況に不満があるとしても、そんな都合良くはいかないんだからね」
おあいにくさま、と強めに発声して顔をしかめ、べ、と舌を出す。
オレはべつに、アカネさんに上がりを期待してるわけじゃないんだけどなと思った。
アカネがいるから視えるようになったのか、視えるから霊にちょっかい出されてしまうのか。このへんがはっきりしてからでないと、アカネに成仏されるのはとてもまずい。
もし、アカネがいなくなったら。この先もさっきのような霊障が続けば、視えるだけでなんの能力も持たず、無力な修哉は対抗の手立てを失ってしまう。
あんなのに集られて延々とむさぼられ続けたら先早晩、間違いなくオレはあの世行きだ。修哉は確信していた。いまも逸るような予感がある。
「じゃあ、アレはどこへ行ったわけ?」
さあね、と小首を傾げる。
「そのへんでちっちゃくなってるんじゃない? 吹き溜まった恩讐みたいな、たとえば」
うーんと、悪意の固まり? と疑問を投げかけて首を傾げる。
「いや違うかな、些細な恨みとかー、あ、くっだらない愚痴だって餌になるんだからね」
舞台に上がって演技でもしているかのように、わざとらしく人差し指を立て、ひらひら漂わす。
「人間の薄ら暗い部分をかき集めて、やっとあんたに視えるくらいになったとこを」
ふっ、と勢いよく息を吹いて、「こーんな感じであたしが吹っ飛ばしてやったから、ま、しばらく大人しくしてるんじゃない?」
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