第一章(2)…… 居酒屋の中年男

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 その時、背後の扉が手荒く開いた。若い男の声が響く。 「——シュウ!」  勢いよく飛び込んできたのは梶山だった。不意打ちすぎて、本気で驚いた。飛び上がって、うわっと声が出た。  息を飲み、視線がかち合った。しばし、無言で見合う。 「あ……悪い、大丈夫か?」  先に口を開いたのは梶山だった。 「え、あ、——ああ」  まじまじと梶山の顔を眺める。なんでそんなに泡食ってるんだと思った。  修哉の表情を読んだのか、梶山が口を開いた。 「なかなか戻ってこないから、具合悪いのかと思って」  真剣な眼差しに、気がかりの色が見えた。ちらりとスマートフォンの画面に目をやる。二十分近くが経過していた。  さすがに驚いた。こんなに時間が経っていたとは。 「ごめん、電話かかってきちゃってさ。ちょっと話し込んでたら時間忘れてたみたいだ」  ごまかしながらも申し訳ない気持ちが起こる。  一杯引っかけて中座したまま戻ってこなければ、心配になって様子を見にもくるだろう。  しかし二十分間、ここには誰も入ってこなかった。あれだけ客がいて、そんなことがあるのか。そう思ってたら、梶山が言った。 「なんか最初ドアが動かなくてさ、焦ったよ。鍵かかってるのかと思ったけど、ここそんな仕様じゃないはずだし。どうしようかと考えてながら押してたら、急に軽くなって開いたから」  鍵がないのに、引っ張っても動かない。梶山の言葉に、修哉は冷や汗をかいた。  こんな怪現象も、オレの身の回りではふつうに起こる。 「なあシュウ」と梶山が神妙になって、こちらの顔色を窺う。 「さっきの火事の話が嫌で席外したのか」 「え? なんで?」  そんなことを訊くんだ、と思った。 「なんかおまえ、変だったから。さっきの話題にぜんぜん絡んでこなかったし」 「いや、べつに……」  オレは火事を知らないから。  そう言おうとして違和感があった。いや、違う。火事はあった。記憶にあるんだ。  今のいままで、忘れていた。  どうして——?
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