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その時、背後の扉が手荒く開いた。若い男の声が響く。
「——シュウ!」
勢いよく飛び込んできたのは梶山だった。不意打ちすぎて、本気で驚いた。飛び上がって、うわっと声が出た。
息を飲み、視線がかち合った。しばし、無言で見合う。
「あ……悪い、大丈夫か?」
先に口を開いたのは梶山だった。
「え、あ、——ああ」
まじまじと梶山の顔を眺める。なんでそんなに泡食ってるんだと思った。
修哉の表情を読んだのか、梶山が口を開いた。
「なかなか戻ってこないから、具合悪いのかと思って」
真剣な眼差しに、気がかりの色が見えた。ちらりとスマートフォンの画面に目をやる。二十分近くが経過していた。
さすがに驚いた。こんなに時間が経っていたとは。
「ごめん、電話かかってきちゃってさ。ちょっと話し込んでたら時間忘れてたみたいだ」
ごまかしながらも申し訳ない気持ちが起こる。
一杯引っかけて中座したまま戻ってこなければ、心配になって様子を見にもくるだろう。
しかし二十分間、ここには誰も入ってこなかった。あれだけ客がいて、そんなことがあるのか。そう思ってたら、梶山が言った。
「なんか最初ドアが動かなくてさ、焦ったよ。鍵かかってるのかと思ったけど、ここそんな仕様じゃないはずだし。どうしようかと考えてながら押してたら、急に軽くなって開いたから」
鍵がないのに、引っ張っても動かない。梶山の言葉に、修哉は冷や汗をかいた。
こんな怪現象も、オレの身の回りではふつうに起こる。
「なあシュウ」と梶山が神妙になって、こちらの顔色を窺う。
「さっきの火事の話が嫌で席外したのか」
「え? なんで?」
そんなことを訊くんだ、と思った。
「なんかおまえ、変だったから。さっきの話題にぜんぜん絡んでこなかったし」
「いや、べつに……」
オレは火事を知らないから。
そう言おうとして違和感があった。いや、違う。火事はあった。記憶にあるんだ。
今のいままで、忘れていた。
どうして——?
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