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カズ、とは修哉の弟、和哉のことだ。
梶山とは幼稚園で二年間、同じクラスになって仲よくなった。修哉と梶山が卒園の年級に、和哉は兄弟枠で幼稚園に入園してきて、その一年後に梶山糾の弟である慎と出会った。
小学生のうちは兄弟四人でよく遊び回った。だが和哉と慎は学年がひとつ違うから、いまだに家庭の事情を話すほどの親交が続いているとは知らなかった。
「他言しないでくれってカズに釘刺されたらしいけどな」と梶山は続ける。
「おまえに今日会うって話をしたら、慎のやつ、思い出したように言い出しやがったんだ」
聞いてびっくりしたよ、なんで話してくれなかったんだ、と傷ついたような顔をされて、ようやく相手の心情に思い至った。
興味や好奇心ではなく、心から気にかけているのだと。だが気を使って、他の友人の耳に入らない今だから尋ねている。
「事故にあったのは去年の秋だし、そこそこ命の危険は感じたけど……」
修哉は軽く肩をすくめ、小さく息を吐いた。
「武勇伝で言い回るって、他人からすりゃイタイ奴だろ。自慢するような話じゃない」
「そうかな」
「面白ネタっていうより自虐ネタだろ、こんなの。聞かせたところで同情を買うだけだし。だから話さなかったんだよ」
修哉の説明に、「ずいぶんと他人行儀だな」と梶山の態度がしおれた。
「あのな」
修哉は梶山の足元へと目を向けて言った。顔を見たら本当のことを言いたくなる。
「おまえに話すと大げさになるから言わなかったんだよ」
半分は本心。だが、半分は違う。
修哉は思った。アカネさんが視えるようになった日から、勝手の違う新しい世界に取り込まれてしまったんだ。霊との共存を強いられながら、ふつうの大学生のふりをして日々を送るのに精一杯で、本当に他に気を回す余裕も時間もなくて、だから——。
「だけどホントおまえ、間が悪いよな。免許取ってすぐに、もらい事故なんてさ」
梶山の顔は不安げに見えた。滅入りそうな空気を変えようと、わざと修哉は明るい声を出す。
「そうでもないだろ、車は大破で逝ったけどこっちは無傷だったんだ。おかげで中古車は新車になったし、むしろラッキーだったんだって」
そう言いながらも内心では違うことを考える。運がいいとは思えない。命を拾ったかわりに、とんでもないオマケがついてきたからだ。
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