65人が本棚に入れています
本棚に追加
「まだ運転あきらめてないのか」
「あたりまえだろ、そのために免許取ったんだ」
「意外にメンタル強えな」
梶山は笑った。修哉は胸を張って答えた。
「そもそもオレの運転で事故ったわけじゃねえし」
誓って安全運転だった。オレは、悪くない。むこうが勝手に突っ込んできたんだ。
「九年……いや、十年近くになるか」
梶山の言葉に、目線を向ける。
「なにが?」
「おまえの大殺界の周期」
「え?」
なんだよ、大殺界って、と問いかける。梶山は困ったような表情になった。
「定期的に来るんじゃないの? そういう悪い運気」
「なんだよ、オレの運気って。おまえ占い師にでもなるつもり――」
修哉が軽口を叩く途中に、冗談じゃなくて、と梶山が口を挟んだ。
「マジで気をつけろよ」
真顔で梶山に念を押される。占いやらまじないやらを信じてるかどうかは別として、本気で心配しているのだけは伝わってきた。
「まあ二度あることは三度あるっていうから、なるべく気をつけるようにするよ」
十年後のことはわからないが、とりあえず今は無事だ。死なないように守ってくれる味方もいる。
でも、と疑問を抱く。本当にそうだろうか。
左の肩に置かれた細い指が、視野の外側に見える。いま、どのような表情でいるのかはわからない。
誰にも見えない女。オレはあの日から幽霊に取り憑かれている。
修哉はあえて明るく言葉を返した。
「大丈夫だって。おまえも言ったとおり、俺は強運なんだ」
心配してくれてありがとな、と梶山の肩を軽く二度、叩いた。
最初のコメントを投稿しよう!