第一章(2)…… 居酒屋の中年男

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「まだ運転あきらめてないのか」 「あたりまえだろ、そのために免許取ったんだ」 「意外にメンタル強えな」  梶山は笑った。修哉は胸を張って答えた。 「そもそもオレの運転で事故ったわけじゃねえし」  誓って安全運転だった。オレは、悪くない。むこうが勝手に突っ込んできたんだ。 「九年……いや、十年近くになるか」  梶山の言葉に、目線を向ける。 「なにが?」 「おまえの大殺界の周期」 「え?」  なんだよ、大殺界って、と問いかける。梶山は困ったような表情になった。 「定期的に来るんじゃないの? そういう悪い運気」 「なんだよ、オレの運気って。おまえ占い師にでもなるつもり――」  修哉が軽口を叩く途中に、冗談じゃなくて、と梶山が口を挟んだ。 「マジで気をつけろよ」  真顔で梶山に念を押される。占いやらまじないやらを信じてるかどうかは別として、本気で心配しているのだけは伝わってきた。 「まあ二度あることは三度あるっていうから、なるべく気をつけるようにするよ」  十年後のことはわからないが、とりあえず今は無事だ。死なないように守ってくれる味方もいる。  でも、と疑問を抱く。本当にそうだろうか。  左の肩に置かれた細い指が、視野の外側に見える。いま、どのような表情でいるのかはわからない。  誰にも見えない女。オレはあの日から幽霊に取り憑かれている。  修哉はあえて明るく言葉を返した。 「大丈夫だって。おまえも言ったとおり、俺は強運なんだ」  心配してくれてありがとな、と梶山の肩を軽く二度、叩いた。
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