第八章(2)…… 未来の希望

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 もし、どうやってあの場所をつきとめたのかを訊かれたら、十年も前に務と関わり合いがあり、その事件を明らかにしたいがために、弟が川から拾ったストラップから須藤夫人にたどりつき、務の自宅を突き止めたことまでを、逐一説明しなくてはいけなくなる。  それに、だ。修哉とアカネが実際にやった侵入方法を警察に話そうものなら、聞いた相手は冗談でも言って馬鹿にしていると思うか、頭から正気を疑うかのどちらかだ。  ありがちな嘘でごまかすとすれば、実はなぜか部屋の鍵がかかってませんでした、だから勝手に入っちゃいました、くらいしか言えない。そうなったら住居侵入で微罪になるだろうか。 「わかったよ、オレはおとなしく引っ込んどくよ」 「ああ、そうしとけって」  梶山に言われて、ふと思い出した。そういえばひとつ、訊きたいことがあったんだっけ。  なあ、と梶山に視線を向ける。 「おまえさ、須藤の兄ちゃんに言っただろ、あの時」  え? と梶山がこちらを見た。グラスを手に持ち、差したストローを口に咥えている。 「なんか言ったっけ?」 「時間ができたら、侑永のストラップと出かけてみたらいいって提案しただろ」 「あー」  そういえば言ったな、そんなこと。視線を上に向けて、梶山は言った。 「なんであんなこと言ったんだ? 別に雑誌なんて渡さなくてもよかっただろ?」  んー、と梶山は首をひねる。まあな、と応じた。 「あのさ、人ってな、未来に希望っていうか……目的があったほうが生きやすいんだよ」  意外な返答に、修哉は黙って梶山の顔を眺めた。ふと梶山は、はにかんだ笑みを浮かべた。 「とは言っても、これは死んだじいちゃんの受け売りなんだけどな」 「そうなんだ」 「まずは楽しいと思える時間がほんのすこしでもあれば、ちょっとのあいだでも生き延びられるだろ。そうしたら数分後の将来には違うなにかがあって、もしかしたらほかの楽しみが見つかるかも。わずかでも、いろんな経験を重ねてさ」  ああ、そうだな。修哉はそう答えた。  希望か。
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