第一章(1)…… 火事場の怪談

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「よぉ、久しぶり」  和風の内装に、掘りごたつ式の畳の間。大人が六名、細身なら八名ほどが落ち着ける広さになっている。余った座布団が隅に重ねてあった。  入ってすぐにテーブルの短辺の席、いわゆる誕生席に座っていた井上と目が合った。さっき廊下に顔をのぞかせて修哉を苗字で呼んだ相手だった。  ひときわ線が細く、少年っぽさの残る顔立ちをしている。相手は右手を上げて、口を開かずに笑った。高校に上がったばかりと言っても通りそうな容貌で、いつも年齢確認されるから面倒なんだよとぼやくのを思い出す。  テーブルの上には料理が半分ほど残った皿がいくつか載っている。  井上の横に座っていた高橋が、奥の壁側へと席をずれた。 「シュウ、こっちこっち」  すでにできあがっているらしく、修哉を呼ぶ高橋の顔は赤い。上機嫌の笑顔を向けてくる。  高橋は中学で角刈りにしていたが、大学生になってからは髪をやや長くするようになった。運動好きの筋肉が詰まった体つきに、人の良さそうな丸顔の童顔が乗っている。ひとりだけ体感温度が違うらしく、季節にそぐわない軽装をしている。  高橋が、右隣の座布団を力任せにぼんぼんと叩く。 「ホコリが立つからやめろってば、くしゃみが出んだよ」  井上が大げさに顔をしかめて言った。  空けてもらった席に入ろうとしたら、遅かったな、と高橋に背中をひとつ、強めに叩かれる。掘りごたつのなかを軽くのぞき、確認してから座った。  左隣の高橋と、テーブルの短辺を陣取る井上は小学校から中学校まで、高橋の対面にいる松田は中学校三年間のつきあい、その右隣、出入り口で注文担当を決め込む梶山にいたっては幼稚園からの腐れ縁になる。  大学からは全員が別の道に進んだので、会う機会はずいぶん減ってしまった。  松田と梶山は両名とも眼鏡をかけているが、印象はだいぶ違う。松田は控えめで、自ら進んで目立つようなことを好まない。梶山はまさに真逆だ。  梶山が「なに飲む?」と訊いてメニューを手渡してくる。そのとき、やけに威勢のよい店員がやってきた。迷う暇もない。手際よく追加の注文を取っていく。  間もなく、酒の入ったグラスがいっぺんに運ばれてきた。再会の乾杯の音頭を取ったのは高橋だった。 「ね、あたしにも頂戴」 4de3499f-abce-417b-96bd-74e5ce26e4ce
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