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それぞれの爪を、力任せに畳にめり込ませて移動する。梶山と井上のあいだまでじりじりと近づく。まるで亀のようにゆっくりと移動する。本来ならくっついているはずの腕から先の身体が、ぼやけて消失している。
立体なのに、半分透けて畳の目が見える。
ふいに動かなくなる。そして飛び上がって裏返しとなった。
おそらく仰向けに倒れた状態――手首から先、手のひらを上に向けてばたつき、五本の指先がそれぞれ別の生き物のように乱れ狂い、蠢く。
裏返って足掻く害虫を連想した。嫌悪で総毛立つ。
「おいシュウ、……どうした?」
視界の内に前から手が伸びてきて、ひらひらと動き、こちらの注意を引く。
気が逸れて、意識が現実へと戻された。
見つめる眼鏡越しの両目。五人のなかで一番、垢抜けた服装をして清潔感のある髪型、生真面目そうな顔。切れ長の目を見開き、眼鏡のレンズ越しに気がかりの眼差しを向けてくる。
「大丈夫か? なんかぼんやりしてるけど」
相手——梶山糾の振っていた手が畳へと向いた。
偶然にも転がっていた腕の上に、梶山の手のひらが着地する。とたんに転がる腕がびくりと震え、かき消えた。
同時に、修哉の胸の内に広がっていた不快感が消え失せる。
ああそうだ、こいつ、凄い生命力強いんだった、と思い返す。
「いや……、なんでもない」
口を開く。やけに感情の失せた声音になったのに気づく。慌てて、言い訳を続けた。
「悪い、ちょっと酔ったかな」
ふつうの人間はあれに気づかないし、なんの影響も受けない。多少敏感なやつが不快な空気に感じる程度。
だけど、視えてしまう。視覚による影響というのは存外大きい。一度気づいてしまうと地味にダメージを食らう。
視えてるとわかると、あいつらなぜか全力で視界に入り込んでくる。舌打ちしたいのをこらえて修哉は思う。
どんだけ構われたいんだよ、迷惑なんだよ。こっちは関わり合いたくもない。
とうに死んでるんだから、とっとと成仏しやがれってんだ。
松田がこちらを気にしながらも話を続ける。
「なんかその幽霊、なんでか知らないけどさ、建物の中じゃなくて外に出るらしいんだよ」
修哉の背後で反応があった。
修哉の左の肩から女が顔をのぞかせ、ふうん、と唇が動く。
「なになに、どこの話?」
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