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興味津々の声音。修哉の気を引こうとしてか、前に回り込もうと身をよじる。そのとき左横にいた高橋に、彼女の身体が当たったかのように見えた。まさに男女の姿が重なる。
幻影のごとく、ぶつかる衝撃もなく高橋の身体を通り抜けていた。
震え上がった高橋が壁側へ飛び退く。
うひょお、とおかしな悲鳴を上げ、その声が裏返った。顔を強ばらせて目を泳がせる。
「なにっ? 寒ッ!」
一同が驚いて、目を向ける。
いや、そのカッコで言うんかい、と井上がツッコミを入れた。
反射的に左を見た修哉は、視界を遮る女の顔をまともにとらえた。ばつが悪そうに眉を寄せ、えへへ、と笑っている。
「ごめんね、触っちゃったみたい」
なんだ今の、と言って、高橋は背後と両横を確認している。
「なんだよ、いきなり? びっくりするじゃねえかよ」
「いや、なんか――氷みたいなのが、肩らへん? を通り抜けたような……すっげぇ冷たい感じが」
と言って、左手でしきりと背中から右肩にかけて払う。その腕に鳥肌が浮いているのがはっきりと見て取れた。
そのようすを眺め、やあね、失礼しちゃう、と言って彼女がむくれる。
料理の皿へ手を伸ばしながら、しれっと井上が口にする。
「怪談してると集まってくるって言うからなぁ」
ええ、とこぼした高橋が「あの程度で怪談かよ?」と気弱に言い、口角がへの字に下がった。
平然として肴を口に放り込んでいる梶山を横目に、向かい合う松田と高橋が目を合わせ、互いの背後へと目線を流す。
「よせよ」「やめろって」とそれぞれに口走った。
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