2 もう一つの卒業式

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2 もう一つの卒業式

 (にぎ)やかに校門を出て行く生徒を職員室から見ていると、副担任(ふくたんにん)の先生が声を掛けてくれた。 「先生、お疲れさん。大変やったな。ようあのクラスを無事に卒業させたな」 「いえスーパー副担任の先生のおかげです。先生こそお疲れ様です。年度末には、ご退職(たいしょく)なのに」 「いやいや、楽しかったで」 「先生にそう言っていただくと、嬉しいです。わたしもあの子たちを受け持って楽しかった……」  こともあるが、しんどかった事の方が多かったです。とは言わなかった。  卒業式は午前中に終わったので、わたしは弁当を持参(じさん)して戸外(こがい)で食べようと玄関に向かった。  それほど今日は、暖かい。  玄関を出た時だった。わたしの前に4人の女子生徒が立ちはだかった。  4人ともわたしのクラスの卒業生だ。  しかも、わたしが飛び切り手をかけたと言うか、大変面倒をかけられた子たちだった。  長身ショートカットの(きみ)は、深夜徘徊(はいかい)するのを一晩中(ひとばんじゅう)探したことがあった。  また、(いや)(けい)(きみ)は不登校傾向で、家まで時々迎えに行った。  喧嘩(けんか)(ぱや)(きみ)は、喧嘩の後(きみ)の無事を確かめに行ったわたしを投げ飛ばしたよね。  ()ては、屈託(くったく)のない笑顔(えがお)(きみ)だ。ヨットのヨの字も知らないわたしに、ヨット部の顧問になれと強引に迫って来たのだ。  結局わたしは、引き受けたがまともに部が動くまで相当苦労した。 「な、何よお礼参(れいまい)りじゃないでしょうね」  もちろん、お礼参りをされる覚えはない。つもりだが。  屈託のない笑顔の女子生徒が言った。 「先生、大変お世話になりました。私たちどうしても先生に、感謝の気持ちを表したくて」 「え? (なに)(なに)?」 「こちらへどうぞ」  まさか? 体育館の裏に連れて行くつもり?   そういうこともなくすぐ(そば)の桜の下に行った。 「では、私たちの感謝の気持ちを歌で表します。では、先生にはこれを」  そう言って、わたしに二つに折った紙を渡してきた。開いて見ると歌詞が書かれてある。 『(あお)げば(とうと)し』 「私たちは1番と3番を歌います。先生は2番と3番を一緒に歌ってくださいね」 「え? 私も歌うのね……。わかった」 「じゃあみんな、せーの」 「(あお)げばー(とう)しー わがー()(おん)ー」  彼女たちは、歌い始めた。きれいなメロディーの歌だ。わたしは、この歌が好きだ。歌詞は古い言い回しだが、心にしみる。  (はた)から見ると純真(じゅんしん)な学園ドラマの一コマのようだ。  みんなしっかりと歌っている。 「いまーこそーわかれめー いざーさらーばー」  1番が終わった。
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