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今日は、未和が保育器を出た。
だから私は、初めて未和を抱いて哺乳瓶で母乳をあげられた。
少しの量だったけれど、未和は小さな口で一生懸命 母乳を吸っていた。
「未和ちゃん、チュッチュ上手ね」
話しかけると、未和は私のことを見つめてくれた。大きくてまん丸な目が、可愛らしかった。
『お誕生日おめでとう、6歳の未和』
未和を寝かせてから、病室の机で便箋に向き合う。手紙を書き始めてから2ヶ月経ったけれど、はっきり言って進みはあまり良くないのかもしれない。
私のいない未来、そんな未来を生きる未和にどんな言葉を掛けて良いのか、正直わからなくなってしまったのだ。
相談すると夫は、自分が思うことをありのままに伝えればいいと思うよ、と言った。
『未和の入学式、見たかったな。お名前を呼ばれて元気よくお返事は出来たかな?お友達はもう出来たのかな?どんな子か母さんにも紹介してほしかったな』
お家に呼んでお手製のケーキでおもてなししたかったのに、と書き続けて私は、ペンを止めた。
私、未和のためにしてあげたい事が沢山あるんだ。
自覚して、私は自分の身体を抱きしめる。
この身体を蝕む癌が今すぐ全部消えてくれたら、どんなに良い事だろうか。
未和ともっとたくさん過ごせたなら、どんなに良い事だろうか。
思いが溢れそうになって叫び出したくなった時、ふわぁ、と眠っていた未和が欠伸をした。
「……したい事は沢山あるけど、今は、今の自分に出来ることを一生懸命しなきゃね」
再び寝息を立て始めた未和に語りかけて、私はまた、手紙を綴る事にした。
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