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いつの間にか「おめでとう」の声は止んでいた。
俺は涙で濡れた目でプレーヤーを見遣る。
プレイヤーは仄かな雑音を吐き出しながらまだ動き続けていた。
声が響いた。
「おめでとう」
それは、若い男性の声だった。
このテープを初めて再生した時に響いたものと同じ声だった。
俺の脳裏にその声が掛けられた時の情景が蘇る。
その時、俺はぬくもりに抱かれていた。
その時の俺は、空気の冷たさに驚き、光の眩しさに怯え、響く様々な音に恐れ戦いていた。
そして、力の限り泣き叫んでいた。
この場所は怖いとの訴えを込めて、ついさっきまで浸っていた温もりの中に還りたいとの思いを込めて。
そんな俺の耳に声が響く。
「おめでとう」と。
暖かく、そして優しさと嬉しさとに溢れた声だった。
俺は叫ぶことを止め、声の方向へと目を向ける。
まだ朧気な視界の中に飛び込んで来たのは、泣き腫らしたような目で俺を見詰める若い男性だった。
俺に微笑みかけるようにして、男性は再び口にする。
「おめでとう。」という言葉を。
俺は再び泣き叫び始める。
でも、それは産まれたばかりの声ではなかった。
俺は嗚咽しながらこう口にする。
「ありがとう、父さん。
ありがとう。」
俺に微笑みかけたその男性は、四年前に亡くなった父さんの若い頃の姿に他ならなかった。
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