0人が本棚に入れています
本棚に追加
私が通っていた中学校の校舎が後輩の卒業式のあとに取り壊されることになった。
様々な思い出もあった学校。そんな話を友人と咲かせていたら、どちらが言い出したのか、取り壊される前に一度見ておこうということになった。
私たちが校舎にたどり着くと、作業員の人たちが解体作業の準備をしていた。幸い、まだ作業は本格化していない時期だった。
「あの、僕たちここの卒業生なんですけど」
「はぁ」
「懐かしくて、取り壊される前に中に入って見るなんてできませんよね?」
「いいんじゃね?」
私たちは二手に分かれ、思い思いの場所を見て回った。
よく本を読んでいた図書館、いじめが発覚し学年集会が行われたホール、部活で汗水流した体育館。
各教室の黒板には
「卒業おめでとう」
「ありがとう〇〇中」
「またみんなで遊ぼう」
「ずっとあなたが好きでした」とか、陳腐な文句が書いてあった。最後の在校生となった人たちの残した落書きだった。
友人と合流し、さて帰るか
という時に気づいた。
スマホをどこかに落としたらしい。
友人に謝り、急いで校舎に入る。
どこで落としたかなぁ、ここかなぁと来た道を戻っていくと、
さっき自分が座って黒板を眺めた教室の前の廊下に落ちていた。
駆け寄って拾った。見つかって良かったなぁ、なんて思っていた。
その時は良かったなぁって思っていた。
ひょいと頭を上げると、教室の入り口に嵌められたガラス窓から教室の中が見えた。
黒板にさっきまで書かれていた色とりどりの賑やかな落書きはなかった。
黒板の真ん中に赤いチョークでただ一言
「さようならわたしは今までのこと忘れない」
とだけ書かれていた。
最初のコメントを投稿しよう!