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31)再会
蒼がプロデビューして、10年近くのの月日が経った。
昔とは違いCDが売れない時代ではあっても、蒼はネット配信や動画を駆使し、コンスタントに男女問わずファンを増やし、トップアーティストに躍り出た。
蒼の独特な綺麗な声、ドラムを叩きながら歌うスタイルも人気に結びつく理由の一つであった。
音楽だけでなく独特のビジュアルを買われ、雑誌のモデルや写真集にも挑戦した。
飾らずあどけなさが残り、普通のどこにでもいる雰囲気の中に秘められた靭さと艶気。それもまた多くの人間を惹きつける理由の一つでもあった。
しかし一方で、芸能界のキャリアを積んでも、蒼は様々な欲望や邪念に染まる事は全く無かった。元々人見知りで真面目な性格もあるのだが、必要なイベント以外は全く行かず、自己研鑽とセルフケアを徹底し、少ない休日にはDIYに興じたりスポーツに明け暮れるなど非常にマイペースな日々を過ごしていた。
一方で、児童養護施設の寄付やボランティアも欠かせなかった。少ない休暇で宮崎に帰りひむかの園に行き、趣味のサーフィンの傍ら、ボランティアや海岸の清掃に勤しむ事もあった。
蒼は独り身であるので、言い寄る女性も多く、時には男性からのアプローチもあったが、全て断っていた。その際も蒼は誠意を持って伝えていた。
蒼に表立った噂がなかったので、世間では有らぬ噂も立てられたが、蒼は平然と否定した。
恋愛に興味がなかったのではない。勿論、過去の影響から関係を持つ事も怖い気持ちもある。
一番の理由は、子供の頃から、現在までずっと想っている女性以外考えられず、変わらず一途に想っていたのだ。これだけはマネージャーのタグ以外は知らない。
紫の死から4年が経ったある日の事。
タグが蒼に一通の手紙を持ってきた。どうやらファンレターらしい。最近はSNSでメッセージを頂くので、数も少ないのだが。
蒼宛のファンレターやプレゼントは安全対策の為、タグがチェックした後、蒼に渡している。勿論守秘義務も守っている。
ファンレターの差出人は「藤井 愛羽」と書いてあり、蒼は驚いた。
愛羽は紫と茜の娘だ。最後に会ったのは小学3年生。あれから10年近く経っているので10代最後くらいになっているか。
「蒼、この手紙は必ず読めよ」
言われなくても蒼は手紙には批判であっても必ず目を通している。
蒼は手紙を受け取ると、丁寧に開けた。丁寧な字で書かれてあった。
蒼さん、ご無沙汰しています。
活躍をいつも観ています。
率直に言います。
「蒼さん、宮崎に来て下さい。
蒼さんがよければ、母に会って下さい」
蒼さんが昔、母の事が真剣に好きだった事は子供ながらに気づいてました。
これに気づいたとき、初めは両親が引き裂かれ、怖くなりました。
私達の事も考え、ずっと我慢されてたのかもしれませんね。
母は父が亡くなってから気丈に振る舞っていますが、心から笑っていません。ずっと悲しみに耐えて、自分を責めている様子も見受けられます。
そんな母を見るのは、私も誠にぃも辛いのです。
もう一度言います。
もし蒼さんの気持ちが未だに母にあるなら、宮崎でライブ開催し、母に会ってもらえませんでしょうか。
蒼さんなら、母と一緒に幸せな道を歩める気がするのです。
父と母を応援し続けてきた蒼さんにも、幸せになってほしいです。
追伸
父は、蒼さんの大ファンでした。
FCに入り、雑誌の切り抜きをまとめ、ツイッターでは相互でしたね。
蒼さんがTV出演するとき、いつも私達に観るように呼びかけてました。
蒼は涙を堪えながら手紙を読んだ。
愛羽は、蒼が結婚しているか彼女がいるか、私生活を知らない状態で綴ったのたが、蒼がデビュー前に茜を想っていたことを子供ながらに感じ、忘れずにいた。そして今回、寂しい気持ちを隠し懸命に生きる母親の様子が居た堪れず、一か八かの気持ちで手紙を綴った。
手紙を読み終えたのを見計らい、タグは声をかけた。
「蒼、おまえは紫知事が亡くなったとき、
いつも感情を剥き出しにしないお前が珍しく泣いたよな。
俺、お前があのとき、2人のことを心から悲しんでたの、ようわかったんだよ」
本当は1人で泣く事があるのだが…
「誰よりも2人の幸せを望んできた。
本当は相手が亡くなったら、喜ぶ奴もおるのによ。俺は蒼には、幸せになる権利があると思うんだ」
「タグ、来年のツアーの日程…」
二人は早速、次のツアーの日程を組み始めた。
「蒼、あの会場押さえられたよ!即答だし、みんな喜んでたわ」
故郷への凱旋ライブは、ファイナルを宮崎2daysにした。太平洋沿いにあり、1万人は収容できる野外会場だ。
そしてこの日程は、紫の命日とも重なるのである。
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