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「お前、どういうつもりだ」
葛城は常務室にいた。立花が今にも殺しそうな目でこちらを見ている。
「先ほどアポロン社から抗議の電話があった。柊代表に突撃したそうだな」
「まあ、そうですけど」
「うちにとっても大事なお客様となるんだ。先方の機嫌を損ねたらどうする」
「まず、こっちの機嫌を損ねてるんですが」
立花のデスクの横には空となった土産の紙袋がある。
「誤解しているようだが、私はあれから反省したんだよ。君の無意味な研究に、価値をつけてやってると言ってるんだ」
「それでこちらから敵に塩を送るなんて自傷癖がすぎる。だから会社が傾くんです。いつかつぶれますよ」
「いや、潰れない。業績が低迷しているのは、我々の頑張りが足りないからだ。もっと熱心に、もっと積極的に業務にあたる。そうすれば必ず結果はついてくる。これが経営再建の唯一の方法だ」
葛城は俯き、メガネのブリッジを一度押さえ、ふと息をつく。そして顔を上げ、しっかり立花の目を見て、確かに彼の言葉でそう言った。
「たわけだなあ」
立花は数秒後、その言葉の意味を理解しゆっくりと立ち上がる。そして葛城の目の前に迫る。彼の周りには先ほどよりも大きな黒い炎が立ち込めていた。
「たわけだと……? 君、口の聞き方には気を付けたまえ! 私は常務だぞ!」
「偉いのは、『常務』であってあんたじゃない。じゃ、これで」
葛城は背を向け、常務室の出口へ向かう。すっと立花はそれを遮る。彼は確実に沸点に達していた。大きく身振り手振りで怒りをぶつける。
「@※$△◎■! &◇★=£♪※▽◎?!」
ただ残念なのは、何を言っているか分からないということである。
「▲□※?@◆▽%♯★∀☆θ§・ω・Δ@@&>Д<! 分かったか!!」
「……は?」
残念ながら葛城には響かず、そのまま常務室を出ていった。たった数分の激しい動きで立花は全身汗だくである。あがった息を整えながら小さくつぶやいた。
「……やれるならやってみろ。できるわけないさ……こんなところではな」
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