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「で、俺のところに来たわけか」
アポロンのロゴが刻印されたチョコレートを放り込みながら、弓月は目の前の葛城に語り掛けた。
「食うか?」
「結構です」
「しかし何故私のところに来た。いつも立花を連れてるの知ってるだろ。お前にとっては私も『あっち側』じゃないのか?」
「あの時、あなただけが具体的な問題を指摘していた。つまり、大枠は理解してもらっているということですよね」
「ほう……?」
弓月はカップに入ったコーヒーを一口つける。これだけはブラックと心に決めている。
「マイルを実用化したスマホ、確かに画期的だ。だがその手段は現実的でなければならない。今それを生み出せるのはお前だけだ。商売するには大量に生産する手段と、資金が必要になる。アイデアだけが書かれていてそこがスカスカだ」
常に持ち歩いている封筒から、葛城の企画書を取り出す。それぞれのページには弓月の朱入れがびっしりと刻まれていた。
「財源と、生産手段。ここがダメなら話にならない」
「逆に言うとそこがOKならいいってことですね」
「お前が疎い部分は、味方を見つけて何とかしろ。決して『逃げ』ではないぞ」
弓月の部屋の窓に陽が差し込む。彼は窓の外を眺め、2つ目のチョコレートを手に取った。
「知り合いの町工場に『ミニ電話』を発注してるんだが、売り上げも落ちて生産台数も減りがちだ。社長も病気で亡くなって今は甥が継いでる。ちょうどお前と同じくらいだ。話くらいは聞いてくれるだろう。金のことは長津田にでも聞け」
「……分かりました」
「まあ、やれるというなら止める理由はない」
「でも、アポロンに売ろうとしてるでしょ」
「最後はどちらに利益があるかで決める。ひっくり返してみろ」
葛城は赤ペン先生宜しく添削された企画書を引き取り、弓月の元を去っていく。
「その工場ってどこにあるんです?」
「調べりゃすぐに出る。『清水製作所』だ」
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