第1部「炎上」

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第1部「炎上」

「今、なんと……?」  立花は弓月のデスクを前に立ち、目を丸くした。日差しは強まり、外から望めるビル群の反射がいっそうきつくなる。チーズケーキの最後の一口を飲みこみ、弓月は答えた。 「双葉銀行が、マイルの投資に対して再提案をしたいともちかけてきた」 「いや、しかし、あれは元々銀行側が撤回したはずでは……」 「ああ。『補償として同額の通常融資を受ける』というのと合わせて、お前が言ってきたよな」 「え、ええ……」 「事情が変わったのか。まあいい。今日の16時銀行で……」 「お待ちください副社長! べ、別に行かなくてもよいのでは?」  弓月はきょとんとした顔を浮かべる。 「なぜだ」 「既に、銀行と融資の話はついています! 『お構いなく』と断るのでいいでしょう!」  立花の声がところどころ上ずる。弓月はそんな彼の横に立ち、表情を変えず囁いた。 「お前、何か勘違いしてないか」 「は……?」  彼から表情が消えるというのがどういう状況かを、立花はよく知っている。 「元々私が受けた提案を、お前が勝手に返したこと、まだ認めてないからな」  弓月の声は、自分の臓器が振動するほどにひたすら低く響く。立花は自身から血の気が引いていくのを実感した。 「副社長は……マイルの投資に、賛成と仰るのですか……?」 「儲かる方が、会社のためになる」  弓月はそれだけ言うと、自分の部屋から出ていった。甘味ばかり口にする彼から発せられた言葉は、とても辛いものだった。
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