第1部「炎上」

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 夕方。結局立花は彼の運転手として、銀行についていく。受付で待っていると3人の男が現れ、中へ通された。 「お待ちしておりました。弓月様、立花様」  名刺には本部長、融資課長の役職が並ぶ。そして最後の一人は、立花にだけ自己紹介をした。 「苦労をかけたね、寺林君」 「ご無沙汰しております、弓月様。さあこちらに」  この寺林という男が提案を持ちかけた人間ということで間違いなさそうである。あのやり取りがあったにも関わらず、銀行の面々は何ともなく雑談を続け、こちらに対しても余裕がある。その光景が立花には不気味で仕方がなかった。 会議室に案内されると、長津田と葵の姿が立って出迎える。そして奥には、ミニ電話製造を請け負う清水製作所の社長だ。  そして奥にもう二つ椅子がある。銀行の3人は電話を受けると、すぐさま先ほどのエレベーターへと戻っていった。和気あいあいと周囲が会話する中、立花は確実に取り残されていた。 「何が、何が行われようとしている……?」  数分も経たないうちに3人は、最後の客たちを連れて戻ってくる。それは、立花が真っ先に想定から外した者だった。 「後藤さんに、柊代表……!?」  2人は奥の席に座り、銀行の者たちと談笑を交わす。 そもそもメインバンクを競合でもつアポロンの経営者が双葉銀行に足を踏み入れるなどあり得ないことだった。マイル開発への投資を銀行に一旦はやめさせたのも、アポロンが彼らにとって重要な開拓先であり、その機嫌を損ねかねないと立花が脅したからだ。 「後藤さん! 後藤さん!」  立花は奥に届くか届かないかの声量で、奥に呼びかける。幸いにも早いタイミングで後藤が反応した。 「おお、立花さん! どうも!」 「いや、どうもじゃなくて! これは一体!」 「立花さん……」  後藤はそう言うと、右口角を上げながら親指を立て、そのまま前に向き直した。 「……何ですか? 何ですか今の! 何のグッドなんですか!?」  デジタル時計が16時ちょうどを示す。寺林と共に前に立つのは、葛城だ。 「皆さま、本日はお越しいただき誠にありがとうございます」  寺林が口を開く。 「今回は、華陽・アポロン・そして清水製作所の皆さまにとって大いに利益となるご提案をさせていただきたく存じます。世界的に開発競争が進む次世代海底資源『マイル』。その商品開発を、いち早く実現されたのが、こちらの葛城誠一さんです。一方、同時期にアポロンから、建設中のスマートシティについてエネルギー面の課題をうかがいました」  部屋が暗くなり、プロジェクターのスイッチが入る。スクリーンに彼の作った資料が映し出された。 「そこで私は、この両者を解決するため―」  スクリーンに文字が出る。立花は目を疑った。一度深呼吸して、寺林が声を上げる。 「—華陽・アポロン両者によるマイル蓄電池の共同開発を提案いたします」
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