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「後藤さん、なぜあのような!」
立花には納得できなかった。なぜ将来的に得られるであろうマイルの特許すら買い取ろうとしていたアポロンが、あろうことか葛城の提案で引き下がったのか。そして梯子を外されたこの状況は自分にとっても鼻持ちならない。
「譲歩しなくても、御社であれば丸々買い切れたはずだ!」
「落ち着いてくださいよ、立花さん」
「はい……?」
「これは譲歩じゃない。むしろ近道だ」
後藤は一冊のファイルを取り出す。
「読んでみてください」
半信半疑のまま立花はファイルを開く。しかし読み進めるごとに彼の表情は一変した。ページをめくるスピードが上がっていく。ファイルを閉じた時、彼は後藤と目を合わせ、古い洋画のマフィアのような笑みを浮かべた。
「なるほど……これは……」
アポロンの応接室に2人の笑いは5分ほど響き、ドアの外の社員に戒められほどだったという。
「全く……がっつきすぎるのは好きじゃないのに……」
さゆりはビルの屋上に立ち、沈みゆく陽を眺めながら一人呟いた。
「まあ、せいぜい頑張りなさい。華陽は、私の物よ」
(第1部・完)
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