第2部「序章」

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第2部「序章」

「金城、聞いたか」  彼は、薄暗い喫煙室に佇んでいた。壁に寄りかかり、片耳にイヤホンをつけた子分に話かける。 「何すか。今からレース始まるんですけど」 「大平のじいさん、いよいよ引退らしいぜ」 「出た出た。どうせまた、毎回出ては消える噂でしょ」  ぶら下がっているもう片方のイヤホンから、ファンファーレが漏れ伝わってくる。 「弓月家が大平家に集まった」  ゲートが開いた。金城は初めて、その男に顔を向けた。 「……マジっすか?」 「知り合いの週刊誌記者が張っていた。病状の改善が見られず、じいさん自ら申し出たんだそうだ」 「へえ……じゃあ、いよいよですか」 「ああ、社長交代……ここまで長かった」  黄ばんだ換気扇が音を立てて回る。彼はしわがれた笑い声を煙に乗せ、紙筒を口にした。 「これは、来ましたね」 「来たな。俺たちの時代だ」 「あ、すみません。単勝10万が来たって話で」 「そっちかよ」  同時刻。上階の役員会議室は、かつてない緊張感が張り詰めていた。華陽の取締役全員が、神妙な面持ちで腰かけている。時計の秒針、衣の擦れ合う音が耳につく。今まさに、華陽の最高意思が決定されようとしているのだ。  議長の弓月が全員の挙手を確認し、ゆっくりと立ち上がる。その横には、ハンカチで口を押さえる、研究開発部長であり、社長令嬢である大平葵の姿があった。 「満場一致により、新しい代表取締役社長に、大平葵を選任いたします」
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