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「葛城さん、あなた、アポロンに来ない?」
「え?」
葛城と同じく思わず声が出てしまった。慌てて両手をふさぐ。
「正直言ってね、研究チーム全員があなたに首ったけなのよ。アポロンに来れば今以上の待遇と報酬を約束する。何よりもっとフィールドでその力を振るえる、悪くない話でしょ?」
「まあ……そりゃ……」
どんな鋭いスマッシュも軽々と打ち返す葛城が、珍しく言葉に詰まっていた。
「少なくとも、あの女上司の手には負えないわよ」
「女上司……?」
さゆりの視線がこちらを向いた。一瞬とはいえ目が合った。しまったと思った。さゆりが意地の悪そうな笑みを浮かべている。
「葵さん」
「ふぁい!?」
後ろからの声に思わず変な声が出る。
「ゆ、弓月さん……」
「どうされました?」
「いえ、別に……」
葛城の方を見返すと、さゆりはいなかった。
「少し、よろしいですか」
弓月に呼ばれ、葵は会場の外へと出た。社長就任の取締役会が開かれたのは、それから数日後のことである。
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