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「一体どういうことなんだ!」
翌朝、華陽の取締役会は大紛糾となった。耳を疑う情報が飛び込んできたからである。
「なぜ株式会社マイルの株が、アポロンに譲渡されている!」
それは、株式会社マイルの社長職が清水から後藤に交代したという内容だった。その前段階として、清水が保有していた会社の株式がアポロンに譲渡されていたのである。
当初は真偽不明の情報だったが、アポロンが公式のプレスリリースを出したことにより事実であることが発覚した。
「こんなものは火事場泥棒だ!」
「社長が交代したこんなときに……許せん!」
取締役の面々はアポロンに怒り狂っていたが、今となってはもう遅い。契約は間違いなく有効なものであり、何より当初筆頭株主だった清水がこの事実を承諾している。
「皆さん落ち着いてください」
立花の呼びかけにより、場は一瞬で静まった。
「あくまで我々はマイルへの出資側です。それに、マイルフォンの生産状況は変わりません。当初からこれは、華陽とアポロンによる共同開発事業です。大勢に影響はないのでは?」
常務である立花の冷静な声に、言い返す者はいない。それどころか、自分たちが早まっていたのではないかとすら思い始めている。
「私がアポロン側と話をしてきます。これが当社に不利益をもたらすものではない。その確約が得られればいいわけですよね?」
終始無言を貫いてきた弓月はその言葉にようやく反応した。
「やれるか?」
「お任せください」
テーブルの中央で、事態を受けて俯く葵がか細く口を開いた。
「皆さん……申し訳ありません。私が不得手なばかりに……」
「いやいやいや! 社長のせいでは……!」
紅潮していた役員たちが今度は葵たちをなだめ始める。とにもかくにも、その場は一度収まった。
会議を終え、立花は一番に場を後にする。着信が入った。
「後藤さん、お疲れ様です」
『清水さんは、快諾していました。円満なM&A。えんまんどえー、なんて』
「ハッハッハ! またまたお好きですね。こちらは万事抜かりなく」
『よろしく頼みますよ』
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