30人が本棚に入れています
本棚に追加
/83ページ
手短に会話を終え、悠々と長い廊下を歩く。その場に似つかわしくない、壁に寄りかかって薄汚れたスーツに身を包んだ男と会うまでは。
「あれ、お前だろ。立花」
男は、立花の前に立ち、両手をポケットに入れながら不敵な笑みを浮かべる。身分証もかなり年季が入り『宇和島 貴裕』の名前がギリギリ読めるくらいである。
「いいねえ、やるねえ。早速華陽への反撃開始ってわけかい」
「何の用だ、宇和島」
「社長も代わったし、そろそろ動くときかと思ってな。新政権が地盤を固めるには時間がかかる。組織論の常識だろ?」
宇和島はポケットから右手を取り出すと、立花の前に差し出した。
「手を組もうや。俺はこの会社をひっくり返す。お前と意思は同じだ」
立花は彼の手を眺め、それを容赦なく突っぱねた。
「勘違いするなよ、宇和島。私はお前と違うんだ。粗暴なやり方と一緒にされては困る」
「……は?」
「どけ、忙しいんだ」
立花は彼をよけると、そのまま廊下の先へと歩いていく。宇和島は一言叫ぶ。
「お前忘れたわけじゃないだろうなあ!?」
無視する立花。宇和島は軽く舌打ちすると、逆方向へと歩き出した。
「まあいいさ……俺は俺のやり方でやらせてもらうぜ」
エレベーターを待ちながら、立花も呟く。
「お前のやり方で残るのは焼け野原だ」
「せいぜいぬるま湯に浸かってろ」
「私を見くびるな」
エレベーターに乗り込み、振り返ると、遠くこちらを見る宇和島の姿があった。目を合わせ、2人は確かに口を揃える。
「俺が」
「私が」
「「この会社を、ぶっ壊す」」
最初のコメントを投稿しよう!