第2部「暗雲」

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「揃いました、宇和島さん」  路地裏にひっそりと建つ居酒屋では、金城の呼びかけに応じた華陽社員15人あまりが座敷に集結していた。会社に左遷された者や、部署内で冷遇を受ける者、労働組合の急進派などルーツはさまざまである。  そんな彼らはただ1点の共通項において一致していた。 「俺たちは全員大平家に煮え湯を飲まされ続けてきた『討幕の志士』だ。先代が退いた今、大平家に力は残っていない。だからアポロンになめられるんだ」  彼の演説に、聴衆は大きく頷き、また声を上げて同調した。 「ここ数年の凋落ぶりは、無能な経営体制のせいだ!」 「アポロンにも弱腰なまま、これでは華陽の名折れです!」  宇和島が続ける。 「今こそひっくり返さなければならない。俺たちの手で時代を取り戻すぞ!」  男たちは気勢と共にジョッキを掲げた。宇和島が目で合図を送り、金城はA3大の紙をテーブルに広げる。 「早速ですが、明日こちらが週刊誌に出ます」  今回の株式会社マイルが買収された一件を取り上げた記事は、その傍らで葵ら経営陣が蚊帳の外に置かれていたことを揶揄する内容である。清水の独断なので知る由がないのは当然だが、世間の華陽に対するイメージダウンは避けられないだろう。  宇和島は自信に満ちた笑みを浮かべながらジョッキを空にし、テーブルに勢いよく置いた。 「明日から、忙しくなるぞ」
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