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「売りに出して」
銀髪の彼女は株価ボードを前に口火を切った。役員たちの視線が一斉に向く。タブレット端末を片手に背広からタートルネックのセーターなど思い思いの服装が並ぶ。3面の大型ビジョンから株価のほかに世界地図や各国のニュース映像が絶えず流れ続ける。
「よろしいんですか、代表!?」
「バンダラム政府のこの動き、クーデターの予感がするわ。諸国は確実に経済制裁を仕掛けてくる。木材の流通が止まって高騰するわよ」
「で、ですが、まだ確実とは」
「いいからやって。失敗したら、私がなんとかする」
傍の男は「後藤史晴」の名札を提げ、彼女の意思に基づき、上がり続ける銘柄を粛々と売りに出した。
次の瞬間、各国のニュースが速報の赤で埋め尽くされる。
『バンダラム共和国でのクーデターを認定。周辺諸国が禁輸措置の発表で最終調整』
会議室はどよめいた。グラフは大きく下降する。
奥の彼女は大きく息をつき、自身のゲーミングチェアに背を預け、両手の拳を高く振り上げた。
「当たったあ! また儲かっちゃった!!」
部屋の中で自然と拍手が沸き起こる。
後藤は初めて画面から目を離し、彼女に視線を合わせた。
「お見事でした、柊代表」
「これでアポロンをもっと大きくできるわよ。今からワクワクしちゃうよね」
「観光事業も一通り落ち着きましたし、次は球団でも持ちますか」
「うーん、私野球はあまり知らないし。ねえ、ホークスってJリーグだっけ?」
「いやそれサッカー!」
2人のやりとりで笑いが起き、緊張の空気はようやく緩和へとつながった。
彼女は右手首のスマートウォッチに囁く。
「あなたのおかげよ、アポロン」
『お安い御用です。また何かあれば申し上げます』
ここは株式会社アポロン。設立10年にして世界にも名を轟かせる国内最大手のベンチャー企業である。
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