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「立花! どういうつもりだ!」
その様子は、当日のうちに社内を駆け巡った。華陽がついにアポロンへの身売りを検討しているという情報は衝撃的なものだった。そして当然、宇和島の耳にも入ることとなる。
「株式会社マイルが乗っ取られた時は勝手に褒めておいて随分だな」
「大平家の体制を揺るがせるものと信じていたからだ。華陽ごと奴らに渡したら元も子もないだろうが!」
「華陽の将来性を考えた末の結論だ」
堪えきれず、宇和島は立花の胸倉をつかむ。
「お前も分かっているだろ! 柊さゆりに華陽を渡すってことだぞ!? それはつまり……」
「だからこそさ。華陽が新時代に彷徨わないよう、根本だけは守る必要がある」
数拍の間を置いて、宇和島の手が力なく離れていく。
「……お前は、完全に変わってしまったんだな……」
「これが私なりのやり方だよ。ただ焼き払おうとするだけのお前とは違う。私は常務として、全社員を守る責任がある」
「詭弁だ。お前が自らその立場に飛び込んだ。あの時から道を違えていたわけだ」
薄い雲が陽に重なり、社屋の窓からこぼれる光は一段と少なくなっていく。
「なら俺も、遠慮なくいかせてもらうぜ」
「……勝手にしろ」
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