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「今度の狙いは、華陽自身だったってわけか」
会社の窓を眺めながら長津田は一言そう漏らした。
「今思えばマイルの共同開発も、そのダシに使われたってわけだ。まんまとやられたなあ、葛城?」
葛城は手前の机で黙々とパソコンを操作する。
「あのさ、ここは君の部屋じゃないぞ?」
「いいじゃないですか。葵さんいなくなってから注意する上司もいないし」
「へえ? 葵さんいなくなって寂しいんだあ?」
部屋中に葛城の舌打ちが響く。
「……しかし、完全に葵さん隙を突かれちゃってる感じだよなあ。まあ先代が強すぎたって言うのもあるんだけど」
「やっぱり、相当すごかったんですか」
「そりゃそうさ。『華陽中興の祖』とも言われてるんだぞ? 新社長が基盤を固めきれていないうちに攻め込むのはある意味常道だけど、さすがに容赦がないよなあ。葵さんがさすがに前社長の次女とはいえ―」
「次女?」
葛城の手が止まった。
「え、次女? 長女じゃなく?」
「……さ、今日もいい天気で―」
「曇りです。ごまかせないっすよ」
長津田は唸りながら両手で自分の顔を覆う。どうやらみだりに言ってはいけないことだったようだが、もう遅い。
「どういうことです」
「……いやー、知ってる人は知ってる話なんだけどね」
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