第2部「鳴動」

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「ごほっ! ごほっ!」  病院のベッドで善十郎は激しく咳き込んでいた。これまでは葵が自宅で療養させていたが、病状の悪化が著しく、彼女の社長就任に伴い、都内の病院に身を移している。 「誰か、ごほっ……水を、水をくれ……!」  しわがれた声が個室に響く。かつて一代を築いた姿とは裏腹に、白髪が垂れ下がり、皮膚から骨の形が分かる程であった。彼の前にコップ一杯の水が差しだされる。善十郎はひたすらそれを流し込み、安堵の一息をついた。 「はぁ……助かった。ありがと―」  言い終わろうとしたとき、差出人の顔が彼の目に入った。それは、日本中の前に、彼が最も知っている人であった。 「お前は……!」  窓からそよ風が差し込む。彼女の、さゆりの艶やかな銀髪が揺れていた。 「久しぶりね、お父さん」
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