第2部「白日」

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『お父さん、葵に会社を継がせるってどういうこと?』    21歳の時、さゆりは独学で人工知能『アポロン』を開発した。当時、華陽の主力商品が『ミニ電話』だった頃、既に会社は没落の一途をたどり始めていた。「華陽は時代遅れ」という風潮が世を駆け巡り、競合他社の成長は著しかった。  その噂は華陽の一部スタッフにも伝わり、衝撃を与えた。善十郎の後任は、長女でもあるさゆりであることが大方の予想だった。しかし、善十郎が選んだのは、葵だった。 『その言葉の通りだ』 『……彼女が、何をしたの?』 『あいつは成績も優秀だ。華陽の精神を教え込んだところ、全てを受け入れた』 『でも、私は、このアポロンを―』 『それが一体何の役に立つというのだ。うちの会社には無駄なものだ。行けと言った大学にも行かず……』 『お父さんは、何も分かっていない。私がこの3年間、何をしてきたか……』 『何をしてきたか? 時間の無駄だろ』  その言葉で、葵は家を出る道を選んだ。そのために『大平』を捨て、母方の姓である『柊』を取った。髪も白く染め、当時のルーツを完全に拭い去った。  そして現在、その結果は歴然としていた。 「その日からここまでやってきたの。私が正しい、私を追い出したこと、後悔させてやろうって」  手首のスマートウォッチを押さえ、さゆりは続ける。 「あいつだってそう。何のとりえもないくせに、あんたの言うことばかり聞いて、譲ろうともしない。私は自分の力で会社を作った、アポロンを広めた、北極海だって拓いた、時代を作った。あなたたちを、追い抜いた。今日はそれを言いに来たの。ねえ、今どんな気持ち? フフフ……アハハハハ!!」  さゆりの高笑いが響く。ため込んでいた思いを悔いのないよう彼女は吐き出した。ここまでこみ上げてきたのはいつぶりだろう。全ての成功はこの時のためにあったのだと思うと、カタルシスもひとしおだった。  これで善十郎が笑って応えなければなおよかっただろうと思う。
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