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第2部「回顧 一」
「本当に、よろしいんですね?」
澄み渡った大気で、いつもより星の数が多く感じる夜空の下、立花と後藤は、料亭で2人静かに酒を酌み交わしていた。
「珍しいじゃないですか。後藤さんが聞き返すなんて」
「ここから先は、後戻りできませんよ」
「清水さんの会社を乗っ取った時に、既に一線は超えている」
立花はそう言うと彼の目を見て静かに微笑んだ。
「怖いのかい?」
「そりゃ、怖いでしょうよ。僕らのやり方が、却って悪い方に動かないか、今でも自信ないんですから」
よく見ると後藤が持つ盃の水面は忙しく波を打つ。立花がそっと手を添える。
「全て、これでよいのです」
後藤は一度大きく頷き、手の酌を一気に飲み干した。
「肝心な時に不安になるのは、そっちに行っても相変わらずだな」
「今でも戸惑うことがあります。水が違い過ぎますから」
「もう3年か」
「ええ……あの、立花さん」
彼の盃に酌をする。
「せっかくなんで、久しぶりに『チーフ』と呼んでいいですか」
「……チーフ、か」
後藤はそういうと上着の内ポケットから一枚の写真を取り出した。
「ずっととっておいていました」
オフィスの一角で撮られた集合写真。壁には3年前のカレンダーがかけられ、立花、後藤と、そしてもう二人。
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