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「明日、これを各媒体社に一斉送信します」
「お前……これは……!」
取締役会で了承されたとされるその新体制には、『代表取締役社長:宇和島貴裕』『取締役副社長:金城純一』などと彼らが名を連ねている。
当然このような案を実際の役員らが承知した覚えも、今後承知する見通しもない。
「これが流れた時点で大平体制は終わる。俺たちの時代が始まるんだ」
諸所の不祥事やトラブルが表面化している葵の体制下において、これが世に出ればそれだけで致命傷となるであろう。この『新体制』の正体は、それを見越した上でのクーデターの連番状だった。
立花が咄嗟に紙をテーブルに叩きつける。器の揺れる音が部屋に響いた。
「うまくいくはずがない!」
「だから、お前なんだよ、立花」
「は……?」
「正直俺は社長職なんかどうでもいい。金城が気を使って書いてくれているようだが」
「……何が言いたい?」
宇和島は後藤の酒を持ち出すと、自分の盃に入れて一杯飲み干す。
「この話乗るんなら、新社長を立花宗之、お前にしてやってもいい」
「だから立花常務? 他の役員に根回しお願いできませんかね? 彼らの処遇は現状維持にしておきますんで」
後藤には固唾を飲んでその場を見守るしかなかった。立花も黙ったまま、額には汗が浮かび始めている。
「不満というなら、お前のシナリオを聞かせてもらおうか」
立花は宇和島に目を合わせ、そして口を開いた。
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