第2部「回顧 二」

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第2部「回顧 二」

『我々がこれからの華陽を背負っていくんだ』  かつての立花は後藤達にそう檄を飛ばした。 華陽は当時からその勢いに翳りを見せ始めていた。主力商品であったはずの『ミニ電話』が有していたシェアは数多くの“上位互換”に駆逐されていった。減益傾向に歯止めがかからず、赤字決算が現実味を帯び始めていた。 当時の常務にして、中期経営計画の策定責任者として関わった御門が責任を問われるのはほぼ避けられず、現場の不満は爆発寸前だった。 『この際遠慮はいらない。会社のためになると本気で思ったことをやろう!』 『『『おう!!』』』  『新製品開発チーム』はそうした不満が表面化した印象的な動きだった。 製造部から立花と宇和島、営業部から金城、そして経営企画部から後藤が自発的に集まり、華陽の現状を変えるための分析と提言を行うために発足され、あくまでも有志の集まりとして位置づけられながらも、既に社内では大きな関心を呼んでいた。 本来の職務を終えた夜分遅く、彼らは薄暗い会議室に集まって誰の目も気にせず思い思いに話し合った。 『まず主力商品が足を引っ張っているのは致命的だ。最近ではアポロンという新興企業がAIを使った製品で台頭し始めてきている。勝負をかけるなら今だろう』 『“ミニ電話”の改良は絶対条件とする。あんなかまぼこ板、いつまでも通用すると思っている方が大間違いだ!』 『よく言った宇和島! あんなベンチャーに負けて堪るか!』  立花と宇和島の熱が上がる中、申し訳なさそうに後藤が手を挙げる。 『あの……』 『んあ!?』 『ひっ!』 『……あ、悪い。なんだ後藤』 『あの……アポロンがAIを売りにした大型メジャー路線で行くなら、我々は敢えて“人の手”による丁寧なケアや品質保証を打ち出すべきでないかと思うんですが……』  場が静まり返る。 『あ、あの、いやすみません。何でもな―』 『それいいっすね』  金城がこぼした。 『多くの競合社がアポロンを意識する中で、敢えて逆に行くのは戦略として悪くない。それを老舗の華陽がやるというのも面白いでしょ』  立花もしばらく考え、二度、三度頷く。 『それ、ありだな』 『やるじゃねえか後藤』  後藤にとって宇和島は声量や喋り方から絡みにくい存在だった。こうした会議で話すのも勇気が要る。とはいえ、否、だからこそ笑顔で返されると人一倍嬉しく感じる相手だった。 『ありがとうございます!』 『その路線なら、これまでできなかったことも色々やれるな』  侃々諤々の会議は早朝まで続いたこともあった。しかし彼らに疲れはなかった。いつまでも働けるような気がした。本当の『仕事』をしている感覚があった。
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