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『それで? 何だっけ』
血相を変えた立花を前に、御門は歯を見せ微笑み続けていた。
『なぜ勝手にあのようなことを』
『気を利かせただけだよ。どうせ君たちには、何もできない』
『まだ提言をまとめている途中です』
『分からないのか?』
手を組み、立花の前に上体を屈める。
『私がさせないと言っているんだよ』
『何故です』
『会社の和を乱すようなことを許す幹部がいるとでも?』
二人が同じスタートラインに立てないのは既に明らかだった。だがそれを受け入れることなど彼には到底できない。
『常に進化を求め続けるのは当然でしょう。既に他社は『ミニ電話』を大きくスペック面で上回る商品を量産しています。これまで業界を引っ張ってきた我々が、なぜ後塵を拝さないといけないんです』
『その発想がそもそも間違いなのだよ。『ミニ電話』は大平社長が作り上げた血と汗と涙の結晶だ。これを守り抜かないでどうするというのだ』
『しかし、その弱点が日に日に露見しているのを放置することはできない。ミニ電話も、それを放置し続けている経営体制も』
大きく首を左右に振りながら、ゆっくりとため息をつく。
『それを過ちと思うからいけないんだ』
『は……?』
『我々がミニ電話の力を信じないでどうする』
『しかし、実際に売り上げが落ちています』
『それは頑張りが足らないからだ。商品の魅力を伝えきれていない努力不足だよ。それをすぐに新製品だの、新事業だのとバカバカしい。水を差すことは今すぐやめたまえ。いいね?』
立花の拳が震え始める。ありとあらゆる侮蔑の言葉が脳裏に浮かんだ。しかし、それをここでぶちまけてしまっては、むしろ彼の思うつぼである。俯き、幾度も深呼吸し、平静を保つ。
その途中、ドアを蹴破る音がした。その足音は勢いよく近づき、自分を通り過ぎる。そして鈍い音を部屋に響かせた。
『ぐはあっ!!』
顔を上げる。先ほどしたり顔を浮かべていた御門が鼻を押さえている。指の狭間から血が流れる。認知するうちにさらに二発、三発と拳が撃ち込まれていく。
『よせ! 宇和島!』
止めたもののもう遅かった。
『バカなこと言いやがって! ふざけんな!!』
馬乗りになって宇和島は殴り続ける。他の社員らが押さえつけるまでの間、立花は呆然と立ち尽くすしかなかった。
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