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第2部「決心」
『どういうことですか!』
御門の顔が秒を追うごとに赤くなっていく。目の前には、何の感情もなくこちらを見つめる弓月がいる。
『経営計画の実現に向けて尽力してきたのは、私です! それなのに、なぜ今、異動なのですか!』
『不条理に見えるか?』
『当たり前です!』
何も言わず、静かにメガネを直す。
『ほう、じゃあカラ出張を計上して会社の金を着服していたのと、どっちが不条理かな』
『は?』
その顔は、赤から青へと変わっていく。弓月は引き出しからクリアファイルを取り出すと、それを御門の前に差し出した。承認された領収書の控えと予約確認メール。そして、それがキャンセルされたことを示すもう1通のメールと、彼に関する当時のスマホの位置情報である。
『それで、何だっけ?』
その後、御門が話すことは何もなかったという。
『あの場で気づかなければ、会社はこれから先もあいつに貢ぎ続けていたわけだ。よく話してくれたな、立花』
入れ替わるように、彼の前には自信に満ちた立花がいる。彼がこの部屋に向かう途中、抜け殻になって戻っていく御門とすれ違ったという。
『あの人は私が通ったことにも気づいてないでしょうね』
『しかし、これを集められる信頼筋とは、いったい誰だ?』
『企業秘密でございます』
『ハハハ。早速コンプライアンスを破らせるわけにもいかんか』
3日前のことである。立花が蕎麦屋を飛び出したあの後だ。彼は一目散にアポロンへと足を運んだ。後藤もとにかくその背を追う。
当然アポイントなしでの訪問など受け付けられる見込みはない。但し、今回は違った。
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