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『お待ちしておりました』
受付が当然のように2人を通す。待たせた覚えはないが、言われるがまま彼女との面会を迎えた。
『そのバッジ、まだ変わっていないのね』
手帳を閉じると、透き通った瞳がこちらを覗いた。若くして漂うその貫禄に、自然と頭が下がる。
『やはり噂は本当だったんですね……柊、いや大平さゆりさん』
後藤は立花の顔を振り向き、再びさゆりに目を向けた。確かにどこか善十郎の面影を感じ、何より髪色を合わせれば葵にそっくりである。
『いつ華陽の方が来てくれるか、待ってたのよ。だから、そのバッジをつけた人は、顔パスで通させてるの……で、どうするのかしら?』
『はい?』
『どうやって、華陽を壊すの?』
立花に心臓を掴まれたような感覚が走る。
『どうやって、と言いますと……?』
『だって、それでいらしたんでないの? 噂だったら私も聞いているわよ。現場の社員が自発的に集まって無謀にも改革を進めていたって。立花宗之チーフ?』
『無謀って……』
後藤はむっとした。立花が諫める。
『何でもお見通しというわけですか』
『でもわかったでしょ? あの会社で、あいつの下で変えることなんて無駄なことだって』
『……確かにそうです。だからこそ、あなたの言う通り、華陽を壊さないといけない』
『向かうは修羅の道よ?』
『構いません』
さゆりのスマートウォッチが反応し、AIの声が流れ始める。
『横浜での会議まで、あと45分です。最短ルートで約1キロの渋滞発生。早めの移動をお勧めします』
『アポロンって言うの。この子優秀なのよ? 施設を検索すれば混雑状況やメニューの売れ行きまで調べてくれる。人名を検索すれば経歴なんて一瞬よ。あなたの上司が経費を使っていることなんて朝飯前』
『え……?』
『せっかくの機会よ、試してみる? それが済んだら、またいらっしゃいな』
その夜、立花のメールに御門の情報が送られてきた。
『君のことは色々と聞いていたよ。宇和島のことは残念だったな』
場は再び弓月の部屋に戻る。
『本来であればすぐにでもチーム復活、といきたかっただろうが、暴行を起こしたとなっては仕方がない』
『分かっております』
『どうだね』
メガネを直し、立花を見上げる。
『御門がいた椅子に座るつもりはないか』
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