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第2部「核心」
「俺は5年待ったんだぞ」
鹿威しの音が鳴る中、宇和島は鋭い眼光で立花に訴える。あの時、全てが始まった料亭に散り散りとなった全員が揃っていた。
「大平家の継承は難航している。その上で材料は作った」
「あとは、我々が動くだけです」
金城も加勢する中で、後藤は目線を外して小さく縮こまっていた。真意があったとはいえ、裏切ったと思われ続けていることに後ろめたさを感じずにはいられなかった。一方で隣の立花は腕を組み、目を閉じたままである。
「どうしても、こうするしかないのか」
一言、彼はそう呟いた。その言葉を宇和島は待っていた。
「お前が常務になったと聞いて、華陽に取り込まれたと失望していた。だが分かったはずだ。ここまでやっても、会社はなお変わろうとしない。たとえ柊さゆりを引き込んだとしても、結局は大平家の血筋で何も変わらん。本気なら、全てを一度ぶっ壊すしかない」
「……君たちが正しかった、と」
「今なら、まだ間に合う」
後藤は立花の方を見続ける。
「後藤君」
目を開き、こちらを覗いた。
「柊代表に対しては、任せましたよ」
それだけ言い、しばしの沈黙ののちに宇和島へと視線を移した。一瞬のその強い眼差しに後藤も腹をくくる。
「明後日の役員会議までに役員たちを説得する」
「本当か!?」
「泥船にしがみつくほどの覚悟はない。利があればすぐになびくはずだ。合図を出してお前を会議に呼び込む。最後は宇和島が決めてくれ」
「……いいんですね? そうなんですね!?」
宇和島と金城のはしゃぐ様子を久々に見た。
差し出された『人事案』を受け取り、立花は二度、三度頷き、内ポケットにしまった。
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