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ホールの側には避雷小屋があり、4人はそこへと身を移した。時が経つにつれ周囲は暗くなり、雨足は強くなっていく。時折閃光も目に入る。
「こりゃあ今日は中止かもなあ……」
長津田がそう呟いた。
『雨雲レーダーによれば、10分後に一度雨は止みますが、その後は明日夕方まで天気は下り坂です。都内西部には大雨・洪水警報が発令されました』
さゆりのスマートウォッチも今後の荒天を予想する。
「じゃあ俺のミスはチャラですね」
「いや、なかったことにはならんからな」
「もう早いとこ帰りましょうよ」
「ばっ、誘ったのお前だろ!?」
長津田も葛城に乗っかる方が幾分楽だった。未だに後ろにおわす残りの二人から発せられる重苦しい空気は払しょくできていない。
さゆりは多少絡んできたが、葵に至っては今日一言も発することなく、今も一人遠くの稲妻を見つめている。ここまでくると、もう触れてはならない領域なのだろう。居酒屋で時折見かける、合コンを盛り上げようとする空回り男に長津田は初めて心を寄せた。次会った時はもう少し温かく見つめてやろうと考え始めた。その矢先である。
「なんか言いなさいよ」
さゆりの声が聞こえる。それは明らかに前方にいる自分たちではなく、隣にいる葵に向けられていた。
「今日、ずっとそれじゃない」
開けてはいけないパンドラの箱が開く予感がした。いや、そもそも二人を引き合わせた時点で禁忌を犯している。セッティングした葛城を改めて恨んだ。
「……私が言えることなんて……」
(しゃべった!!)という声が長津田の喉元まで沸き上がった。
「そんなの、持ち合わせてないわよ」
「はあ!?」
さゆりの何かに触れた。
「じゃあ何しに来てんのよ!?」
「私に言わないでよ! 葛城君が来いって言うから無理やり……」
「来るあんたもあんたでしょ! 何をのこのこ言われるがまま来てんのよ!」
「断れるわけないじゃない!」
「部下でしょ!? 社長でしょ!?」
『社長』。その言葉に葵がびくついた。
「あなたとは違うの!」
今度はそれにさゆりが反応する。葵の胸倉を掴み、目を見開いて彼女を凝視する。とてもじゃないが長津田は振り向けなかった。
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