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「お父さんに会った」
さゆりが口を開く。
「私に色々気は遣ってたけどね……結局あんたを褒めて終わるのよ」
「……え?」
「あいつはね、結局あんたが可愛いの。あれだけ弱っても、あんたしか見えてないのよ」
さゆりの体が震え始める。しばらく俯いた後、再び顔を上げた。潤んだ瞳が葵の目に入る。
「お姉ちゃん……?」
「ほんっと、恨めしいわ」
さゆりの手が放れる。常に強さを見せていたさゆりの、それまで見たことのない姿に葵は動揺したが、目を逸らしてはいけないと本能が告げていた。
「この期に及んでそうなのよ、あいつは。私、絶対後悔させてやるの。だからさ、私に手ごたえ感じさせてよ。私以外の奴なんかに倒されるなんて、絶対に許さないから」
雨は弱まり、雲は一瞬の晴れ間を見せる。葵は初めて自分からさゆりの方に体を向けた。微かに震える彼女の手にそっと触れる。
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