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第2部「決着」
「これより取締役会を始めます」
翌朝。昨日からの雨は、夜のつかの間の晴天をかき消すように、より大粒となって都心を覆いつくしている。大雨・洪水警報が発令され、交通機関にも乱れが出始めていた。
最上階な故に風で静かに揺れる華陽本社の会議室は、異様な空気に包まれていた。葵や弓月、そして立花を含めた15人の役員が部屋を埋め尽くす。
「まず最初の議題を―」
「その前に、よろしいでしょうか」
弓月の言葉を遮り、立花が挙手する。立ち上がるその姿を役員たちは不思議に思わない。会議前、皆が立花に決起を促されたからだ。
同じころ、営業部長室では長津田が落ち着かない様子で、窓を眺めるかスマホを操作するかの繰り返しである。
「めっちゃ目に付くんですけど」
「だって緊張するじゃない、正念場だもの……って、何してんの葛城」
見ると、葛城は全身レインコート姿でフードを被っている。背中にはリュックの盛り上がりとスーツケースが見える。
「スマートシティに呼ばれました。大雨で蓄電池の不具合が起きているみたいです」
「そ、外に出るのか!?」
「はい? そうですけど。何か問題あります?」
「い、いやないけど……」
無自覚にモラルのないことを言ってしまいそうだったので止めた。
「まあ『こんなときに』ってのは僕も思いますよ。でも自分で選んだ道だから、仕方ない」
彼は荷物を手に部屋を出ていく。長津田はそれを静かに見送ることしかできなかった。
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