30人が本棚に入れています
本棚に追加
「経営が低迷し、さらには明るみになった数多くの失態。そんな華陽を建て直すため、私はあらゆる手を尽くし、先日アポロンとの経営統合を提案いたしました」
役員たちは皆、立花の言葉に耳を傾ける。
「しかしながら、経営再建を進めるにあたり今回到底看過できない実態が明るみとなりました」
「実態?」
「はい。それこそ、会社を誤った方向へと導くガンです」
彼の背後のドアが勢いよく開く。
「その通り! 会社を蝕むガンを許してはならん!」
宇和島が会議室いっぱいに叫ぶ。金城は他の燻り社員たちを引き連れ、共に気勢を上げた。『華陽死守』『大平一派追放』というおどろおどろしい文字を躍らせたプラカードを掲げ、役員たちに迫る。それが目に入った葵は思わず怖気づいた。
「何だお前らは!」
一人の役員が怒声を浴びせるも、集団がそれを跳ね返す。
「ここに集ったのは、華陽の惨状に立ち上がった気高き者たちだ! これ以上、上の好き勝手にさせるわけにはいかん!現経営陣の速やかな刷新を求める!」
「「「そうだ!」」」
会議室は騒然としていた。このような状態など過去にあるわけもなく、あるはずもなかった。それでも煮えたぎった彼らが沸騰し、蓋を押し上げるのは、強い援軍を得たからである。それは何を隠そう、一時期は体制側に与し、会社をアポロンに売り渡そうとしていたものの、宇和島の強い説得で翻意した目の前の常務だ。
立花はそのまま続ける。
「アポロンになろうが、華陽のままで行こうが、このガンを取り除かない限り、先に進むことはできません」
「「「そうだ!!」」」
群衆が湧きたつ。弓月は見渡す中で、この異様な光景に何の反応も示さない役員たち数人の姿を確認した。
「全てを始める前に、まずは全てを終わらせなければなりません」
「そうだ!」
金城が声を上げる。
「会社のガンは今すぐ出ていけ!」
「そうだ! 大平一族を追い出せ! 経営陣をぶっ壊せ!」
宇和島が跳ね上がり、この日一番の声を張り上げた。立花の次の言葉を待っていた。彼はそのガンとして葵を指し、解任決議へと持ち込む手筈となっている。既に役員たちの根回しは済んでいるそうだ。
いよいよ葵が放逐される。先ほどから彼女はこちらを見るだけで硬直したままだ。華陽の歴史がこの瞬間をもって大きく変わろうとしている。彼の身体を高揚感が埋め尽くした。
一方の立花は、なかなか言葉を発しない。彼はゆっくりと踵を返し、宇和島に目を合わせ低い声でこう言った。
「お前に言ってんだよ、宇和島」
最初のコメントを投稿しよう!