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『お前、自分の言ってることが分かってるのか』
1時間前。いち早く会議室に入った立花は弓月と対峙していた。
『大平社長体制ではもはや持ちません。今こそ、役員体制を刷新するべきです』
弓月は静かに聞き続ける。
『弓月副社長は役職から離れますが、ここからは顧問として―』
『立花。もういい』
それは怒りではない、全てを察した表情だった。
『お前の狙いを教えろ』
『……隠しても無意味なようですね』
立花は大きく息を吸い、そして背もたれに寄りかかってゆっくりと息をついた。
『試すようなことをしてしまい、申し訳ございません』
立花は全てを話した。
『これから先、一人ずつ同じことを聞いて回り、賛同する役員を炙り出していきます。彼らはいずれ必ず会社を裏切る。根底から覆そうとする宇和島につくのなら尚更。彼らこそが、華陽を腐らせる病です』
『……会議まで席を外しておく。少ないことを祈ろう』
弓月は席を立ち、彼の元から去る。
『立花』
ふと立ち止まり、振り返る。
『お前、まだ許していないか』
『許していませんよ。でもそれくらい愛しています、会社をね』
「信じたくはありませんでしたが、このでたらめな人事案に賛成する役員が一定数おりました」
立花は胸ポケットからマイルフォンを取り出し、録音データの所在を明かした。
「ここに、全てが記録されています」
「おい立花! 話が違うぞ!」
「あなたが用意したシナリオではなかったのですか!?」
先ほどから顔を白くさせている役員が思わず口走る。
「今声を上げた者」
弓月はそれを聞き逃さない。しっかりと目を合わせ、重低音を響かせる。
「君たちが造反者で、よろしいか?」
彼らはそれを聞くや否や次の言葉を失い、俯いた。
「ここには賛同者7人のデータがございます」
「ということは、残りの7人はその人事案なるものに反対ということだね?」
「おっしゃる通り」
弓月は立ち上がり、葵の側に歩を進めた。
「賛成と反対が同数の時は、社長判断で決定を下すのが取締役会での取り決めです。大平社長、ご決断を」
葵は口を真一文字に結んだ。皆が、その言葉を待っている。ただ一人、宇和島を除いては。
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