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「大変申し訳ございませんでした」
喧噪の去った会議室で、立花は葵と弓月に深々と頭を下げた。
「あのままでは、宇和島達によって、華陽が引き戻せないところまで行ってしまう恐れがありました。彼らを止めるにはこれしかなかったもので」
「分かっています」
葵が返す。
「ですが、アポロンによる買収を望んだのは、本心ですよね?」
「……仰る通りです。違う道を行きましたが、すべての始まりは彼と共にあります」
立花はすべての経緯を二人に話した。
「御門さんを告発したのは、宇和島です。彼はそうやって全てを焼き払おうとした。一方の、私は上に立つことですべてを変えようと考えました。そしてそこには柊さゆり代表が必要だ、とも。大平家の血を受け継ぎながら、自ら殻を破り、世界から注目を集めるあの方なら、もう一度華陽をやり直せる。そう思ったのです」
「私は、役不足だったと?」
「……はい」
今なら、何でも素直に話せると思った。
「ですが、今日のお姿。柊代表と双璧をなす、熱い経営者そのものでした」
「慣れてないから、全然コントロールできていないけど」
「ハハハ……」
無意識に笑う自分がいた。愛想でも嫌味でもない自然な笑いだった。姿勢を正し、彼女に向って彼は告げる。
「アポロンとの交渉を打ち切り、全ての処理が済んだ時点で、この職を辞します」
葵はそれを表情一つ変えず聞き入れた。
「あなたも、いなくなってしまうのね」
『も』という言葉に立花は一瞬の違和感を覚えたが、特段気には留めなかった。
「しかし、まさかアポロンとの交渉打ち切りまでおっしゃるとは」
「当然です。既定路線にする方が間違っているわ」
「あそこまで言われれば、従うしかありません」
立花の表情はいくぶん穏やかなものとなっていた
「ですが、これまで私がプッシュしていたこともあり、先方にどう断りを入れるか、考えるだけでも骨が折れます」
「それなら心配ありません」
「……どういうことでしょう?」
葵は窓の外に目を遣る。大粒の雨がガラスに叩きつけられ、風が吹きすさんでいた。
「葛城君よ」
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