第2部「決着」

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『さて、本題です』  昨日のゴルフの時である。さゆりと葵の前で葛城は自身の考えを述べ始めた。 『華陽で不穏な動きがあります。かつて左遷された社員たちが、力づくでひっくり返そうとしている。放っておけば、アポロンの買収にプラスどころか大きな傷になりかねない』 『立花常務の同期でしょ? 後藤君から噂は聞いているわ』 『このまま買収を進めれば、共倒れです。柊代表、ここは一度手を引いてはもらえませんか?』  さゆりは思わず吹き出した。 『あなたからそんな気弱な言葉が出るとはね!』 『弱ってなんかいませんよ』 『へえ、ねじ伏せようと? それじゃその宇和島って人と同じじゃなくて?』 『まさかそんな』 『私怨があるのは認めるけど、華陽にはビジネスの観点からもぜひものにしたいの。ましてや御社から持ち掛けた話、ただで引き下がるわけないでしょ。見返りは?』  その言葉を、葛城は待っていた。 『見返りがあれば、手は引いてもらえるんですね?』 『ものによるけど』  葛城の口角が上がる。 『俺が行きます』 『……え?』 『俺が、アポロンに行きます』  葵の耳から一瞬あらゆる音が消えた。彼から発せられた言葉を現実と受け止めるには時間が足りなかった。 『……やっぱり、私の手には負えなかった、か』  彼女がふと呟く。 『違います。これは葵さんが下せる最後のカード。それで会社が救えるなら、安いもんでしょ』  葛城の言葉は、冗談にしては重すぎた。彼はそれ以上何も言わず、ただ彼女を見つめる。葵は俯き、一度両膝を叩き、また顔を上げた。 『その言い方、ムカつく。最強かどうかは、社長の私が決めるんだから』  今度は葛城の笑いが響く。 『久しぶりだなあ、その感じ』  さゆりは二度、三度頷き、彼にこう返した。 『良いでしょう』 『でも、ここで中止となったら立花常務はどうするつもりでしょうね……』  長津田が切り出す。 『すべてを壊すことは、彼らにとって本意じゃない。左遷組が決起するなら、買収を諦めてでも止めに入るはずよ。それが明日になるか、明後日になるか、はたまた来月か……』  さゆりは右手を葛城に差し出した。 『あなたの来る日が待ち遠しいわね』
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