30人が本棚に入れています
本棚に追加
「そういうことよ」
同じころ。さゆりもまた後藤にすべてを話していた。昨夜、立花は宇和島の誘惑に乗ったように見せかけ、役員会議で一網打尽にする策を後藤に告げていた。
最悪買収交渉も飛びかねないと彼もまた一人腹を括っていたが、さゆりは全てを知っていたわけである。
「恐れ入りました」
「残念だったわね、私だけ得したみたいで」
「いえ、華陽がクーデターでひっくり返らなかっただけでも。それに、妹さんが復活への道筋をつけられるのなら、願ってもいない僥倖です」
後藤は安堵した表情でさゆりを見て、そう言った。
「……もう少しさ、残ろうとは思わない?」
「はい?」
「これでもCFOまでさせたのよ? それだけ見込みがあると思ってるんだけど」
「ありがとうございます」
「だからさ、勿体ないじゃない。ここで投げ出すのは」
「確かに私も惜しいです。ですが……」
後藤は声を詰まらせ、上を向く。
「私は、ケンカ、しすぎました」
さゆりもまた絞り出すように声を出す。
「それが何だっていうの。『死なば諸共』でしょ?」
「一抜けた貴方がそれを言いますか! ハハハ!」
「笑いすぎ!」
「これは失礼……」
「……そこそこ役に立って、退屈しなかったからさ、またいつでも来なさいよ」
「葛城が来るなら、すぐ忘れますよ」
後藤はゆっくりと頭を下げ、その場を後にした。ちょうど立花から着信が入る。
「やられましたね、どうしましょうか」
『結局、また葛城に踊らされていたわけだ』
憑き物がとれたような調子で、立花は話す。
『あーあ! 腹立たしい!』
大雨は少しずつ弱まり、ところどころ晴れ間を覗かせる。スマートシティでは屋内の非常用電源が無事起動し、停電を回避した。
雨が止んだ中、点検と改修を終えた葛城はフードを脱ぎ、空を仰ぐ。
「葛城さんありがとうございます! 助かりました!」
マイル社員たちが歓喜で彼を取り囲む。
久しぶりに見る日差しがどこまでも眩しく見えた。
最初のコメントを投稿しよう!