終章「壊社員」

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「もしもし、お姉ちゃん?」  大通りを社長車が駆け抜け、後部座席の葵はさゆりに電話を掛けた。  向こうからは沈黙が続く。 「もしもし?」 『……聞こえてるわよ』  さゆりの声が聞こえる。 『で、なに?』 「さっきね、お父さんが……」  再びさゆりが静かになった。葵は、それでもよかった。電話で話をするなど、何年ぶりになるだろうか。 『そう』  彼女は一言そう発した。  宇和島のクーデターが失敗した直後、華陽はアポロンとの買収協議を中止した。そして、後藤のだまし討ちにより一方的にアポロンの傘下となった株式会社マイルについて、原状復帰させるべく、葵とさゆりによる熾烈な交渉が続いている。  今や様々なプレッシャーに押しつぶされるだけの葵はいない。一時代を築いた善十郎の後継者として皆が認めるだけのオーラを放ち始めていた。  葵の耳元からはさゆりの深呼吸が伝わってくる。 『明日の葬式は、家かしら?』  さゆりの返答に、葵は思わず笑みを浮かべた。見えないが、電話の先にいる彼女に向って優しく微笑んだ。 「……明後日よ」
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