終章「壊社員」

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「ちょっと右! そう、そこ!」  賃貸のドアに、立花は後藤の作った看板を立てかけた。 「華陽の時よりも部屋が狭いな」 「仕方がないでしょ、今の家賃だとこれくらいです」  引継ぎを経て職を辞した2人は、再び同じ会社、それも起業する形で活動を始めた。華陽の時代に実現できなかった、AIを活用した家電製品の開発が主である。大手ほど量産はできないものの、前職のノウハウを生かし、丁寧な品質保証とアフターケアを武器に、市場へと勝負を挑む。 競合は、当然華陽とアポロン。そして、もう一つである。 「開業は、我々が早かったですね」 「宇和島と金城、あの清水に声かけたらしいぞ」 「え……」  後藤に株を譲渡し、自分探しの旅に出た清水は、結局何も変わらなかった。しかし、当然帰る場所もない。次に沸き起こったのは、アポロンに、後藤に騙されたという怒りだ。  そこにつけこんだのが、華陽を放逐された、宇和島と金城である。『反華陽・反アポロン・反大平』という点で一致し『清水ファクトリー』の立ち上げに邁進している。 「何か、申し訳ないです……」 「社名に『清水』を入れる、入れないで揉めているらしい。一見バカバカしいが、本気を出した奴らを我々は知っている」 「敵は手ごわいところばっかりですからね」 「私も恨みがないわけじゃない。あいつにも、お灸を据えないとな」  冷蔵庫から缶コーヒーを2つ取り出す立花。1つを手にした後藤はふと問いかけた。 「立花さん」 「ん?」 「何かは、変わったんでしょうか」  立花は静かにほほ笑んだ。 「分からん。だが、皆生き生きしている。それなら悲観することはない」
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