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「アポロン、香典っていくら入れたらいいの?」
アポロン本社ビルの屋上。涼しい風が優しく身体を包む。さゆりは手首のスマートウォッチに尋ねた。
『検索しました。取引先社長の親族なら、1万円。両親であれば最大10万円……』
「そう、じゃあ1万でいいわね」
アポロンが応答しない。
「……アポロン?」
『エラー。取引先一覧の中に華陽はいませんでした。故人・大平善十郎さんの親族一覧で妹の葵さんがヒットしましたが、こちらは親族でしょうか?』
その応答にさゆりはため息をついた。
「仕方ない……特別に10万積んでやるか」
彼女の側でスマホを操作する男。使い古したリュックを背負い、眼鏡をかけた長身の青年である。彼女はその青年を振り向き、声をかけた。
「あんたも来るの?」
「俺の、原点なんでね」
「……よりにもよって、育てたのはあいつか」
彼の前を通り過ぎ、エレベーターにすたすたと歩を進める。
「終わったら、マレーシアの開発プロジェクトよ」
「はいはい」
「一つだけ言っておく。華陽ほど甘くはないわよ。ここで自分を貫くなら、結果を出すことね」
「有能なのは、俺が一番わかっています」
「ちっ、ムカつくのだけは葵に同意見だわ」
いつもより少し強めにエレベーターのボタンを押す。彼の方を振り向き、自信に満ちた笑顔で、さゆりは言い放った。
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