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「……」
慧は今の話をもう一度整理する。
兄は父と叔父のことが、自分へのあの対応に関係しているのではないかと言った。
父と、その弟。同じ道を目指し、そして、道を違えた二人。
それは、つまり――
「僕に対して父さんが厳しかったのは、もしかして……僕が弁護士になってしまえば、自分と叔父さんのような状況を生んでしまうかもしれない――そう危惧したから……ってこと?」
慧がそうまとめると、恒は「さすが慧だね」と感心した声を上げた。
「うん、おそらくそれが一番大きいだろうね。ただね……純粋にそれだけじゃないって感じもするけどね」
「……どういうこと?」
「もちろん、自分たちと同じ悲劇を繰り返したくないっていうのは間違いなくあるだろう。でも、本当にそれだけが目的だとして、あの父さんがあそこまで気を病むと思うかい?」
「……? 言っていることが、よく――」
すると、恒はフッと口元を歪ませた。
「きっと、慧に重ねてしまっていたんだろうね……弟の姿を」
「弟の姿、って……僕に、おじさんを?」
恒はこくりと頷く。そして、未だにピンと来ていない慧を悲しそうに見つめた。
「自分の子供に、そりの合わなかった自分の弟を重ねて邪険にするだなんて、わが父ながら愚かなことだと思うよ。でも、裏を返せばそれだけ父は強くコンプレックスを抱えていたんだろうね……正おじさんにさ」
恒はとりあえずそう結論付けると、「と、いうことでね」と話を戻す。
「父さんは、慧に謝りたいって思っているんだ。今まで慧にしてきたことを」
「……」
慧は何と言ったらいいか分からず、黙り込む。
別に今更、父に謝罪してほしいわけではない。もう全て過ぎ去ったことだし、それに、謝られたところで過去が消えて無くなるわけでもないのだ。
だが、そんな複雑な慧の内面などどうでもいいとばかりに、恒は「それでね、一つ、いい案があるんだよ!」とやけに元気な声を上げた。
「もし、僕がこの地で開業するってことになれば、やはり実家の事務所はいずれ手離さないといけないってことだよね」
「あ、ああ、それは……」
「だったらさ、慧が地元に帰って、僕に代わって実家を継ぐっていうのはどうかな」
「…………は?」
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