Leave it to you!

211/305
427人が本棚に入れています
本棚に追加
/305ページ
灯りを消し店のカーテンも下ろしているが、時折店の中は車のヘッドライトでさあっと一瞬、明るくなる。 でも、それらはスピードを緩めることもなく、ただ目の前を行きすぎていくだけだった。 (あーあ、その通りになっちゃったな) あんな仕打ちをしたのだから、それはあまりに当然のことだった。 それなのに、今だこうして未練がましいことを思うあたり、自分は本当に救いようのない馬鹿だ。 やっぱり、自分という人間はこんなものだなと思う。 結局は上辺だけで、中身なんて詰まっちゃいない。そのくせ、相手が与えてくれるものを素直に受け取ることもできない。 デスクの上のカレンダーを見やる。 そういえば、ちょうどこの場所だっただろうか。タクヤが提示したお試し期間、既にそこからひと月が経とうとしていた。 日付が変わろうとする薄暗い部屋で、タクヤはゆっくりと目を瞑る。 たったそれだけで、慧との思い出が映画のエンドロールみたいに流れてくる。 あの大雪の日、彼の大きな手に引かれ、半ば強引に車に連れ込まれたこと。 とんでもないホテルディナーの後の、彼の渾身の告白。 それを断ったにも関わらず、彼が再び、タクヤを訪ねてきてくれたこと。 そう、いつもタクヤを諦めないでいてくれたのは慧だった。 「先生……」 ポーカーフェイスなようで、実は分かりやすいところ。 土砂降りのあの夜みたいに、気を遣い過ぎて結果誤解されてしまうところ。 彼自身が決して満たされていないはずなのに、それでも必死に愛を与えてくれようとしてくれるところ―― 「先生……ごめんなさい」 伝える相手のない言葉はむなしく、夜の闇に溶けて消えていった。
/305ページ

最初のコメントを投稿しよう!