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慧は思わずそう叫んでいた。
「あ、あの、その人というのは……どんな人でしたか」
どかどかと階段を駆け下りてくる慧のその剣幕に、留実は若干引きつつも「たしか……」と記憶を辿る。
「ええと……背はまぁまぁ高くて、明るめの髪で。少しこう、やんちゃな雰囲気っていうのかな、先生とはまた違ったイケメンって感じでね」
「……っ」
慧の中で、「その人」の姿がみるみる形作られていく。
慧は逸る気持ちを抑えつつ、決め手となる質問をぶつけた。
「あの、そ、その人の職業って……」
「確か……美容師さん、って言ってたような」
「……!!」
慧はぐっと拳を握りしめた。
(まさか……)
信じがたい気持ちと同時に、胸に熱いものが込み上げる。
(まさか、ここに来てくれていたなんて……)
もちろん、彼がどんな目的で来てくれたのかは分からない。改めて別れを告げに来た、という可能性もゼロではない。
それでも、慧は構わなかった。
二度と交わることのないと思っていたタクヤとの縁。それが、もしかしたら、また――
「でもその人、ここ数年、全然お店に顔を出さなくなっちゃって。何かあったのかなって、どこかでずっと気にはなってはいたんだけど……って、名前、ほんともうココまで来ているんだけどなぁ」
留実は喉の辺りをとんとんと叩く。
慧は眉間にしわを寄せて唸る彼女に、いやもう大丈夫ですと告げようとしたのだが。
「あっ、先生、分かりました、名前!!」
彼女は目を輝かせて慧を見上げると、「あーすっきりした!」と満面の笑みを浮かべた。
もはや今更聞く必要も無いのだが、ここまで苦労して思い出してくれた彼女の努力を無碍にも出来ず、慧はその名を一応、尋ねてみることにした。
すると彼女は嬉しそうに、こう答えたのだった。
「その人、ノグチさん、って名前です!」
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