Leave it to you!

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「先生だって?」 あまりに予想外過ぎるその「似ている相手」に、タクヤは思わず素が出てしまう。 てっきり、兄貴に似ている、もしくはその兄貴と一緒に店を去った女性――間違いなくタクヤの母のことだろう――に似ている、と来ると踏んでいたのに。 もちろん実際、そう来られてしまっては困るのだが、それにしたって、だ。 「どっ……どこが、ですか!?」 引き気味だった身体を接近させて食いついてきたタクヤに、埜口は大して驚いた風でもなく、グラスの中身をゆっくりと飲み干した。 「どこが、って……もちろん『顔』じゃないよ?」 埜口は氷をがりがりと噛み砕きながら、混乱しているタクヤを見やった。 「先生はあの通り、Vシネでも出てましたかって感じの強面だけど、君はそれとは正反対な、どっちかっていうと軟派な感じのイケメンじゃない? 俺みたいな、さ」 「……」 「そんな顔しないでよ。たとえよ、たとえ!」 埜口はあはは、と一人で笑う。タクヤにとっては色々な意味で笑えない冗談なのだが。 そして彼は急に声を潜めると、「失礼を承知で聞くけどね」と前置きをすると。 「君さ、最近……失恋したでしょ?」 妙に確信を持った声で、そう囁いた。 「へっ!?」 「あれ、当たっちゃった?」 埜口は目をぱちくりとさせた後、「まいったなぁ」と頭を掻いた。 「俺ってやっぱり見る目あるよなぁ」 「……っ」 タクヤは悦に入っている男に、慌てて食って掛かった。 「確かに、俺はまぁ、色々あるにはありましたけど……でも、それと先生がどう繋がるっていうんです?」 すると埜口はニヤリと口角を上げる。 よくぞ聞いてくれた、という表情だった。 「この間、事務所に顔出した時にね、先生、随分と意気消沈していてさ。前にも先生、恋愛がらみでなってたから、また何かあったんだなって美晴ちゃんに聞いたんだよ。そしたらさ、『そっとしておいてください』って。ほんと先生、分かりやすいんだよなぁ、あんな顔のくせにね。……にしても、同じ時期に振られるなんてねぇ」 埜口の冗談でしかないその言葉に、タクヤは過剰な反応をしてしまわないよう唇を噛む。 さっきの殊勝な態度は何処へやら、人の恋路を面白がる男にイラつきながらも、一方で男の言葉が強く胸を揺さぶった。 慧もまた、自分とのことに心を痛めてくれていた。 それが苦しく――それなのに、どこか少し、嬉しく感じてしまう自分が嫌だった。 「これを機にさ、傷心同士仲良くなったらいいんじゃない? 先生、全然友達とかいなさそうだしさ……って、もう友達なのかな」 目の前の男はなおもタクヤの失恋を面白がっているようで。 まるで悪い親戚のおじさんのようじゃないか――と思ってすぐ、まるでもなにも、まさにその通りであったことに気が付いた。 「……」 いつもの余裕のあるタクヤであれば、この話題だって適当にいなすことができただろう。 でも、今のタクヤにその機転はなく。かといって、このまま席を立つようなマネもしたくなかった。 「あの……」 「ん、なになに?」 「さっきのこと、ですけど」 「さっきのこと?」 埜口は小首を傾げる。そんな動作が妙に似合ってしまうところもまたズルいと思う。 でも今はとにかく、この話題を変えることが先決だ。 タクヤは少し良心が痛むのを見て見ぬふりをして男に尋ねた。 「さっき、スマホ落としましたよね」 「あ、ああ」 「あの時……手、押さえてましたけど……あれ、どうしたんですか」
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